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リードの極意1(マイクロミーター)

この世で完成された楽器と言われているのはバイオリン。15世紀中頃レベックと言われる楽器や、中国の二胡など馬の毛を張った弓で弦を振動させて音を出す楽器が起源と言われているが、1550年に突如、今現在の完成された形が生まれたとされているそう。(YAMAHA楽器解体全書より)

とにかく、500年近く殆ど姿を変えることなく今まで弾き継がれているので、進化を遂げるのは人間業(演奏法)に集中し、「美しい音」「美しい音楽」「人並外れた演奏技術」の全てが揃わないと、プロフェッショナルにはなれないし、その中でもさらに上を目指す人たちで競争が激しい。そして演奏の良し悪しはきっとバイオリン奏者同士ならすぐ分かるため(オーケストラの席順など、かなり小さい頃から競争心が芽生える)演奏者として生きていくパーソナリティは、かなり強靭だと思う。

バイオリンは楽器のサイズも 1/16 というのがあるくらいだから、早い子は2−3歳から始められる。オーボエ奏者の様に、楽器が重くて持てません、指がキーに届きません、リードが無くて音が出ません、、、という言い訳は全く通じない、きっとそういう言い訳が一切存在しないのがバイオリン奏者たち。

 

命、魂を売ってでもいいリードが欲しい、、、というオーボエ奏者の切実な悩み。私もこの人生の中で3本ぐらいしか文句なしのリードには出会っていない。一本めは高校2年生の時ハイドンのコンチェルトを学校の試験で吹いた時のリード(先生作だったと思う)。2本目はその7年後の鹿児島県徳之島のコンサートで、ベニスの謝肉祭を吹いた時のリード(自作)、そして3本目はその4年後くらいにアメリカでマスタークラス中にJohn Mack が、「マジカルリードができたから吹いてみて」と吹かせてもらったリード。この3本を超えたリードはまだ出来ない。いいリードの共通点はストレスフリー。口の中にリードがあることを忘れるくらいに自分の息に反応して、思い通りの音色を奏でることが出来る。1本目はドイツスタイルのショートスクレープ。2本目はウイーンのミディアムスクレープ。3本目はアメリカンロングスクレープ。

 リードの先端の削り出しの部分の面積が大きい方をロングスクレープと呼び、短い方をショートスクレープと呼ぶ。演奏者の立場として色々試した結果、結局はオーボエのリードのスタイルはあまり関係ないのかもしれない。

 

30年以上も前の私が高校生だった頃の日本のオーボエ奏者の傾向としては、アメリカ留学帰りの先人と、ヨーロッパ留学帰りの先人と大きく二通りの流派の様な物があり、それぞれの先生からショート、ロングと別れてそれぞれの削り方を習ったと思うが、圧倒的にショート派が多かった気がする。地元で安く手に入る市販品の多く、当時はアメリカンスクレープだったが、どうしてもみんなのピッチに合わせらず、先生に師事するまではとても苦労した。

 

リードは削り方はもちろんのこと、実は形もサイズも全く違う。そして音が違う。音色の最大の差はピッチの差。このピッチの差をどこで変えるかというのがリード作りの要になる。アメリカでは一般的にA=440ー441 Hzでチューニングされる。日本やヨアジアではA=441ー442Hz ヨーロッパはA=443−444Hz。この数字は音の高さを空気の振動数に置き換えて表示している。

通常、管楽器奏者ならピッチの差は間の長さで変わると教わるはずだ。オーボエ以外のサックス、クラリネット、フルートでは、マウスピースや頭部管を出したり入れたりする。金管楽器も同じことをする。でもオーボエの場合はそれではあまり効果がない。それよりも関係するのはアンブッシュア(唇と口周りの筋肉)と呼吸法(息の量とスピードと圧力)とリード自体の抵抗力だ。リード自体の抵抗力は材料の厚さ、硬さ、開き具合、舟形の大きさ、長さで決まる。今回は一番直結するアンブッシュアとリードの関係に絞る。

 

1)呼吸法とリードの関係

オーボエを演奏するのに必要な技術はたくさんあるが、一番大事なのは呼吸。この点に関しては声楽家も他の吹奏楽器奏者にも、そして他のスポーツ選手や実際に息を使わない楽器の人たちにも、全て共通する点かもしれない。体を動かすのも、考えるのも、感じるのも脳。そして脳は酸素が数分無くなっただけで機能麻痺を起こす。呼吸が浅いと、持っている力を十分に使えないということになる。そして酸素を一番消耗するのが筋肉。だから極論から言うと、体の筋肉を使う量を、極力減らして、酸素を有効活用できれば、ベストなパフォーマンスを導き出すことができるわけだ。少ない筋肉で、より多くの息をコントロールすることができればいいということになる。その息がリードを振動させ、そこで音が鳴るので、その呼吸法にマッチしたリードを作る事が大事になる。肺活量が少ないとか弱いとか、年齢から来る比較や、他の人と比べる必要はなく、今自分の持っている肺の機能をフルで使うということに焦点を当てる。フルにするというのは、肺をゴム風船に例えてみれば分かりやすい。小さな風船も大きな風船も、息がたくさん入っていればゴムの縮む力を使って中の空気は、自然に押し出さなくても勢いを持って飛び出す。そして風船に息がたくさん入っていない場合は、風船自らの力で空気を外に出す事はできない。ある程度一定の息のスピードと量を確保して、安定した音につながることになるので、肺を息で満たす練習をしてみて欲しい。そして息を絞り出すことなく、自然に吐き出すことによって、リードが振動する様に調整すればいい。その時に楽器のメーカーや個人差があるが、リードを深めに加えてB, C, C#のピッチまで持ってくる様にする。私は今マリゴーを使っているので、C#がおすすめ。ロレーはC、リグータはB. その時にチューナーは自分の出したい音のチューニングに合わせておく。ここでは唇は削った部分には触れない様にチェックする。ピッチを低くしたい場合は全体的にスムーズに、高くしたい場合は先端を薄くする。

 

2)アンブッシュアとリードの関係

リードを口に加える時のアンブッシュア(フォーム)。口の周りの筋肉は顔全体につながっている。そして喉にも、舌にも繋がっている。それを念頭に置きつつ、どこが一番ベストな深さか感じる、考える。目印はないので、自分がここだと思うところまでリードを口に入れてで演奏するのだとしたら、どこに設定するのがベストか。

まず、鏡を見ながら、ご自分の顔を見ながら行って欲しい。口の端は何もしないリラックスした場所で、何度か深呼吸をして欲しい。肩と肩甲骨が上下しない様に背中の肋骨を横に広げる様な気持ちで息を入れ身体を空気で満たす。そして口にリードを入れたら、舌先でリード先の距離を測る。舌はなるべく小さく動かして届く場所で。口まわりや顎に力が入ると、ダイナミック(喉の開き)と舌の筋肉が硬くなるので、動きが鈍くなる。舌の長さや歯並び、唇の厚さなど個人差があるので、リードの振動をなるべく止めない、ご自分のベストの場所を見つけて欲しい。ピッチは先ほど削り出し部分を全部口の中に入れた時のピッチと同じ様になる様に削ると、楽に吹ける。

この場合ピッチが高すぎたら、先端の薄いエリアを少し広くする。低すぎたら、先端の部分を短くする。全体の長さはショートスクレープの場合、中央の厚さがが0.55-0.58mmのかまぼこを使い(必ず端から端まで均一であるか確認)、幅7.1−7.2mmの舟形、全長72mmで仕上げる。ロングスクレープの場合かまぼこ0.59−62mm,幅6.9-7.1mm, 全長69mmより短くならない様に仕上げる。リード自体の抵抗力はリードの材料をできるだけ保ち、一番楽な息で鳴る様に仕上げる様にすればいい。幅が大きなリードは唇への負担が大きいので開きは小さめがいい。幅が小さめなリードは開きは大きめの方がいい。湿度の高い日はリードは開きやすく、空気の乾いた日はリードは閉じやすい。その日その日でリードの状態が変わる事は仕方がないが、作る工程に時間をかけると、狂いは少なくなる。例えば糸を巻いた後、1週間待ち、皮を剥いだ後1週間待ち80%削った後ゆっくり調整して行って、リハーサルを吹きながら、本番に備えるという感じで。一般的にはアメリカンスクレープの方が、朝作ったリードを夜仕上げてパフォーマンスに吹くという方も多い。

 

3)この方法で上手くいかないリード

どんなに手を尽くしても上手くいかないリードがある。ニューヨークのメトロポリタンの首席奏者であり、ジュリアード、それから私が通っていたマネス音楽院でも教鞭を取られているElaine Douvas 先生から、この点に関しては本当にシンプルで分かりやすい答えがもらえた。このタイプの材料は、すぐ諦める必要がある。

材料が硬い+開きが薄い

材料が柔らかい+開きが大きい

材料=材料の育った環境と保管された環境による

開き=材料自体の原料葦のチューブの外回りの直径(9.50-10.50mm)-と、かまぼこを作るときの中をくり抜くカンナの歯の直径 (10.9-11mm)とチューブの形と舟形の相性で決まる。

これらが全て微妙に影響し合っているので、糸を巻いてしまった後はもう動かすことができない。

材質はガウジング(カンナがけ)を自分でやると、すぐに分かる様になる。歯が材料を引っ掛けるときの感覚と、削りカス(厚さ0.01mmの鰹節の様な薄さで長いテープの様な状態)で選別できる。

 

とにかく全ての工程でミクロの世界。完成リードもいろんな場所の厚さを(0.01mm単位で)メモして自分のデータを蓄積するといい。

 

バイオリン奏者に憧れてしまう気持ち、わかっていただけるだろうか。